多孔質材料は産業界において重要な物質である。例えば、ゼオライトは多孔質の結晶性材料で、細孔径が1ナノメートル以下でちょうど低分子化合物の分子サイズと同程度であるため、産業分野でイオン交換材料、吸着分離材料及び触媒などとして用いられる重要な材料であり、精力的に研究されている。一方、同様な細孔を有する多孔性ネットワーク錯体は、その高い設計性とゲスト包接能といった優れた特性を有しているにもかかわらず、ゼオライトと比較すると本格的な研究は世界的に見て始まったばかりといえる。本研究では、通常電荷移動(CT)相互作用により形成される集合体は積層構造になることに注目した。そこでCT相互作用を利用した多孔性ネットワーク錯体の新しい合成法として、簡便かつより設計性の高い「カートリッジ合成」を提案した。ここで、カートリッジとは、架橋配位子との間で空間を介したCT相互作用により骨格の一部として振舞う平面性の分子である。従来の構築法では、架橋配位子の修飾により細孔の性質やサイズを制御してきたが、本方法ではこの平面性の分子を、カートリッジを交換するかのように、変えることにより細孔の修飾を行う。本研究課題では、適当な金属イオンと架橋配位子およびカートリッジに相当する平面性有機分子を組み合わせることにより、架橋配位子とカートリッジ間のCT相互作用を利用した多孔性三次元ネットワーク錯体の構築を行った。また、カートリッジに適当な置換基を導入することにより、酸性、塩基性、中性といった様々な雰囲気を有する細孔の修飾に成功した。特に、水酸基を導入したカートリッジネットワーク錯体では、無修飾の細孔ではまったく取り込まれなかったメタノール分子が水素結合により細孔に取り込まれていることをX線構造解析により明らかにした。この性質を利用してアルコールの選択的ゲスト包接が可能になると考えられる。
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