本研究の目的は金属ポルフィリン錯体およびその類縁体の分子構造と反応性の相関を明らかにすることである。本研究ではポルフィリンの分子構造が平面構造から歪んだ場合、その反応性にどのような影響が現れるか、また、ポルフィリンの構造異性体であるポルフィセンではどのように反応性が異なるかを調べ、「平面構造の歪み」や「構造異性体」と反応性の相関を明らかにすることを通して、ポルフィリンの分子構造の「平面性」の意義を考察することを目的とする。分子構造の歪んだポルフィリンとしてオクタエチルテトラフェニルポルフィリンを、また、ポルフィリンの構造異性体としてテトラプロピルポルフィセンなどを用いて、これらにCr (III)、Cu (II)などの金属イオンを導入した錯体を合成した。単結晶の得られた錯体の分子構造をX線構造解析により決定した。また、電子スペクトルやNMRなどの分光学的測定、酸化還元電位の測定を行い、その性質を明らかにした。また、ポルフィリン錯体およびポルフィセン錯体の光化学反応や励起状態の諸性質を過渡吸収スペクトルや蛍光スペクトルを利用して調べ、励起状態の動的性質に関する知見を得た。ポルフィリンによる軸配位子の置換活性化のメカニズムを明らかにするために、Cr (III)ポルフィリン錯体の軸位の配位子置換反応の速度を測定し、分子構造と反応性や反応機構の相関を調べた。その結果、今回測定した反応系では軸位の配位子の置換反応が分子構造の歪みの影響をほとんど受けていないことが明らかとなった。これらの知見に基づいて、その反応機構を考察した。
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