研究概要 |
本研究では、遷移金属を含むクラスターをかご状の分子の中で簡単かつ安定に合成し、反応中にそのクラスター構造が散逸することなく人工酵素型金属活性点として機能することを目指している。そこでまず、漆を産生する樹木に含まれるラッカーゼなどのマルチ銅酵素に含まれる酸素分子の4電子還元部位の構造をモチーフにして、三核銅含有クラスター型錯体の合成を行なった。クラスター部分を内部に形成し、その構造を支持する有機配位子として、C_3対称で安定なかご型構造を持ったシッフ塩基型配位子L1を合成した。このL1は、1,3,5-triaminomethylmesityleneと2,6-pyridinecarboaledehydeを混合することにより、溶液中で自発的に形成する。さらにこのL1のシッフ塩基を還元することにより、加水分解を受けない安定なかご型配位子L2を得た。このL2を用いて、Ar下で[Cu^<II>_3L2(OH)_2(H_2O)](ClO_4)_4(1)を合成した。これは三核の銅中心のそれぞれに水またはヒドロキソイオンが配位しており、マルチ銅酵素の三核銅中心部位のモデルとなり得る構造を有している。さらに酸素分子モデルのアザイドイオンが結合した[Cu^<II>_3L2(μ-N_3-)(N_3-)](ClO_4)_4(2)も得られた。これはマルチ銅酵素に結合する酸素分子の配位様式として提唱されている単座と架橋の両方の配位様式がアザイドイオンによってなされていた。次にAr下で、三核銅(I)錯体[Cu^<II>_3L1(μ-Cl)_3](3)ならびに[Cu^<II>_3L2(μ-Cl)(Cl)_2](4)を合成した。これらは酸素分子との反応性を有し、配位子の一部を酸化した生成物など得られている。また全体的にこのケージ型三核銅錯体は電気化学的に擬可逆的な酸化還元挙動を示し、銅-銅間の距離もマルチ銅酵素に類似した良好なモデルである。
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