研究課題
基盤研究(C)
トリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム(II)は発光性の遷移金属の中で最も詳細に光物性が調べられている化合物であるが、この発光状態が分子全体に非局在化しているか否かについて20年間以上に渡り論争が続いている。私は発光スペクトルの振動構造は発光状態の幾何構造の情報を含むことに着目し、密度汎関数理論レベルの計算で得られた基準振動情報と励起状態の分子構造を使って、振動構造をシミュレーションする手法を開発した。この方法を用いてルテニウム(II)錯体の溶液中やガラス中でのリン光スペクトルを理論的に再現できることを示し、これらの環境中では励起状態が1つのルテニウム-ビピリジン部位に局在していることを明らかにした。更に単結晶極低温下で得られた高分解能発光スペクトルの計算にも成功し、局在化電子状態と配位子のC-C伸縮振動とが振電結合しており、この分子環境中ではリン光状態が局在化-非局在化といった断熱近似モデルでは表せない状態にあることを明らかにした。また、亜鉛(II)、ロジウム(III)、イリジウム(III)、オスミウム(II)などのトリスビピリジン錯体についても、リン光スペクトルの理論計算を行い励起状態の構造を決定した。中央大学芳賀研究室で合成されたベンズイミダゾールを含む三座配位子とハロゲン原子などの単座配位子を有する一連のイリジウム(III)錯体の光物性を測定し、それらが1に近い量子収率を示す優れたリン光発光性錯体であることを見いだした。更に、密度汎関数理論計算で得られた電子構造情報を用いて、私が考案した1電子スピン軌道積分近を使ったリン光発光機構モデルに従って輻射速度を計算したところ、実測結果を良く再現できることを示した。これらの結果から、ベンズイミダゾール三座配位子のイリジウム(III)錯体の発光機構を解明した。
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Inorganic Chemistry 45・22
ページ: 6161-6178
ページ: 8907-8921