研究概要 |
非共有電子対を2つ有する酸素原子上にキラリティーを発生させることはこれまで非常に困難であると考えられてきた。本研究では,糖連結金属配位子を用い,無機有機複合体中での不斉酸素原子の構築を行う。金属中心と不斉中心とが直接結合している本系では,金属周辺の不斉環境が配位酸素原子のキラリティーによって大きく影響を受けるという点で非常に興味深い。以上本研究計画では,配位子の精密設計を通して,金属配位酸素原子上に発現するキラリティーおよび金属周辺における不斉環境の精密制御の可能性とその限界を明確にし,「不斉酸素原子の発現」というこれまでにない新しい概念を提唱する。 本年度の研究では,酸素を硫黄に置換したS-グリコシドを有する配位子を合成し,金属に配位した硫黄原子上のキラリティーの制御に成功した(Dalton Trans.,(33),3705-3709(2007))。さらに,不斉窒素原子と不斉酸素原子の2つの不斉点を有する銅錯体を合成し,その結晶構造を明らかにした。温度可変NMRの測定結果から,これらの錯体では,不斉窒素原子の反転エネルギーが著しく高く,このことにより,ジアステレオマーを生成する不斉酸素原子の反転が阻害され,実質上不斉酸素原子のキラリティーが一方に固定されていることが明らかとなった。さらに,種々の分割剤を用いてそれらの光学分割を検討した。この研究は現在も継続中である。
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