研究概要 |
カリックスアレーン類はキャビティと呼ばれる包接サイトと配位部位を併せ持つ興味ある分子であるが、キャビティ空間の特質を積極的に利用したカリックスアレーンの配位化学は未開拓の分野である。本年度は、まずカリックスアレーンの芳香環のキャビティ内面に後周期遷移金属フラグメントがπ-配位した錯体を中心に詳しく検討を行った。その結果、比較的コンパクトなCpRu^+,(C_5H_4Me)Ru^+あるいは(nbd)Rh^+はキャビティ内側に配位するのに対し、立体的に大きなCp^*Ru^+および(cod)Rh^+はキャビティ外側に配位することがわかった。また、カリックスアレーンの環反転をO-アセチル化またはO-プロピル化で禁止するとCpRu^+の配位がキャビテイ外側に起こること、その後アセチル基を加水分解すると環反転が進行してCpRu・部分がキャビテイ内に取り込まれることを明らかとし、キャビティ内側への配位が外側への先行配位と「セルフィンクルージョン」現象の結果であることを立証した。さらに、このことに基づいてCp^*Ru^+を外側に配位させてからCpRu^+を配位させると、環反転が禁止されるためにCp^*Ru^+, CpRu^+ともに外側に配位した異性体が生成するが、先にCpRu^+を配位させればCpRu^+が内側、Cp^*Ru^+が外側に配位した異性体が得られることを示した。以上により、キャビテイ内側への配位という現象を反応機構の面から解明することができた。 一方、本研究に先立って合成したcis-ジオキソレニウム錯体への異種金属取り込みに関しては、Cu(MeCN)^+およびAg(acetone)^+を取り込んだ混合金属二核錯体の合成に成功し、その構造解析を行なうとともに、銅錯体のキャビティ内に配位したニトリル配位子がアルキン類と置換する際の反応性の差を、アルキンによる速度論的な反応性の差と、熱力学的安定性の見地から検討した。
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