本研究は、ポリピラゾリル化合物を配位子とする酸素/硫黄架橋多核モリブデンクラスター錯体を合成し、その特異な性質を明らかにすることに成功している。[Mo_3S_4(H_2O)_9]^<4+>(laq)とKTp(=hydrotris(pyrazolyl)borate)との反応により、[Mo_3S_4Tp_3]^+(1Tp)を、また、[Mo_3OS_3(H_2O)_9]^<4+>(2aq)とTpとの反応から[Mo_3OS_3Tp_3]^+(2Tp)をそれぞれ合成することに成功した。これらの錯体は電気化学的にユニークな酸化還元挙動を示すことを明らかにした。有機溶媒中において、1Tpと金属鉄との反応より、キュバン型Mo_3FeS_4骨格をもつ錯体、[Mo_3FeS_4ClTp_3](5TpCl)を単離した。さらに、[Mo_3NiS_4ClTp_3](7TpCl)、[Mo_3PdS_4ClTp_3](8TpCl)、および[Mo_3PtS_4ClTp_3](9TpCl)を合成することにも成功した。これらの錯体の中で、骨格内にPd原子を含む8TpClでは、ペンチン酸の環化反応における触媒として機能することも明らかになった。さらに、tris(pyrazolyl)ethanolおよびhydrotris(pyrazolyl)methaneを配位子とする酸素/硫黄架橋多核モリブデンクラスター錯体を合成し、それらの錯体の結晶構造とその特異な性質を明らかにすることに成功している。 一方、thiacalix[4]arenetetrasulfonateを配位子とする酸素/硫黄架橋多核モリブデンクラスター錯体・[Mo_3S_4(H_2O)_6(H_2tcas)]^<2->(1H_2tcas)、[{Mo_3S_4(H_2O)_6}_2tcas]((1)_2tcas)、[Mo_3S_4(H_2O)_6(H_2tcas)]^<2->(2H_2tcas)および[{Mo_3O_2S_2(H_2O)_6}_2tcas]((3)_2tcas)を合成することに成功した。その錯体の中で、1H_2tcas、2H_2tcasおよび(3)_2tcasについてはX線結晶構造解析によりその構造を明らかにした。これらの錯体は高次に集積した多核金属錯体高分子を構築するための有望なビルディングブロックになることを明らかにしている。
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