本研究では、昨年度に続きポリピラゾリル化合物を配位子とする酸素/硫黄架橋モリブデンクラスター錯体を合成しその性質を明らかにする研究を行った。配位子にTpe(=tris(pyrazolyl)ethanol)をもつ[Mo_3S_4Tpe_3]^+とPd-dba錯体との反応より、[Mo_3PdS_4ClTp_3]を単離することに成功し、その構造も明らかにした。[Mo_3PdS_4ClTpe_3]はペンチン酸の分子内環化反応に対して[Mo_3PdS_4ClTp_3]よりも高い触媒能を示すことを確認した。 一方、Tpm(=hydrotris(pyrazolyl)methane)を配位子とする[Mo_3OS_3Tpm(Hpz)_2Cl_2SO_4]と硫化リチウムとの反応より、Mo_3OS_3Tpm(H_20)_2SO_4ユニットが硫黄原子によって架橋した高分子錯体、[(Mo_3OS_3Tpm(H_2O)_2SO_4S)n]の合成に成功した。この錯体は、一般的な有機溶媒に難溶であるが、塩酸水溶液には硫化水素ガスを発生しながら溶解する。この反応の過程で、架橋硫黄部位が切断されて、硫化水素ガスを発生する。さらに、Mo_3OS_3骨格内の架橋酸素原子が硫黄原子によって置換され、Mo_3S_4骨格を生成することが明らかになった。Mo_3OS_3骨格をもつ錯体からMo_3S_4骨格をもつ錯体が生成する反応の報告はこれまでに例がなく、本報告が初めての例である。現在この錯体高分子の構造と性質について明らかにするべく研究を継続中である。
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