原子番号が103を超える超重元素は化学反応に直接関与する最外殻電子への相対論効果の影響が大きくなり、元素の基本的な化学的性質である「周期律」からのずれが理論的に予測されている。しかし、超重元素の化学的性質に関する理解は、理論的にも実験的にも未だ不十分である。報告者らは最初の超重元素である104番元素ラザホージウム(Rf)の溶液化学的研究を進め、同族元素との違いに関する興味深い傾向を得ている。今後、105番元素ドブニウム(Db)から106番元素シーボーギウム(Sg)へと研究を発展させることは、超重元素の化学的性質を系統的に知るために不可欠である。しかし、研究の対象になり得る最も長い半減期のSg同位体266Sg(半減期21秒)および265Sg(半減期7秒)は、未だ国内では合成が確認されていない。その理由は合成の断面積が小さく、国内で唯一超重元素の化学研究を進めてきた日本原子力研究開発機構のタンデム加速器照射システムでは、合成に十分なビーム量が利用できないことによる。その主な原因はビーム照射に起因するターゲットおよび真空保持フォイルの加熱・破損であり、同加速器において合成に成功しているRfおよびDbと比較して、Sgの合成に必要な22Neビームはエネルギー負荷が大きくなりその利用が難しいことによる。そこで熱負荷を分散しターゲット等への負荷の軽減を図るため「ビーム振り分け装置」を導入した。テスト実験の結果、ビームを50Hzで振動させターゲット全体に拡散させる事によって負荷を減少させることに成功し、高負荷ビームの利用およびビーム量の増加が可能になり、今後のSg合成の実験的基盤が確立した。また、Rf及びDbの化学研究においてもその合成量の増加により実験的精度の向上が期待できるなど、本研究助成による成果が今後の超重元素の化学研究において新たな展開をもたらす事を期待している。
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