本年度はブタトリエンの集積不飽和構造を延伸した、ヘキサペンタエンの形成する配位錯体を合成し、その構造と反応性について検討した。両末端に芳香環を有するヘキサペンタエンは通常有機溶媒への溶解性に乏しいため有機反応に不向きだが、エチル基を有するテトラアリールヘキサペンタエンを合成することにより、有機溶媒中でジルコニウム錯体と反応させることができた。生成錯体は共役した五員環アルキン構造を有していることを結晶構造解析により確認した。この錯体をアルカリ金属で還元したところ、ジアニオン接を発生した。このアニオン種は極めて反応性に富み、プロトン化することにより五員環アルケン錯体へ変換することができた。これは五員環アルキン錯体を形式上水素化した初めての例である。さらにメチル化、トリメチルスズ化することにより、五員環アレン錯体の合成に成功した。五員環アレンは共役エンインから理論上生成するはずだがこれまで合成例が全くなかった。この五員環アレン錯体の分子構造を結晶構造解析により決定することにも成功した。その分子構造は五員環アルキン、アルケンと異なり、金属-炭素3結合で折れ曲がり、キラルな構造を有することが明らかとなった。金属を中心にしあ環のフリップが起こるとそのラセミ化が期待されるが、溶液中の挙動をNMRで検討したところ100度においてもラセミ化は起きていないことが明らかとなった。さらにスズ化した錯体については、再びジアニオン種へ戻すことにより五員環アルキンへ変換する反応を見出した。
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