研究概要 |
本研究では,水中で発生する水素ラジカルを用いて有害化学物質などを分解するために,"超音波"と"水"を組み合わせた水素ラジカル発生デバイスの作成を目的としている.特に平成18年度は,水素ラジカルの発生を検出し得る反応評価システムを確立するために基礎的データを集積した. 水素ラジカルH・の発生とそれによる反応の進行評価システムとして,ペプチドにおいて原理が解明されている開裂現象(M.Takayama : J.Am.Soc.Mass Spectrom.,12(2001)420-427,1044-1049)を利用した.すなわち,ペプチド主鎖(-C_α-CO-NH-C_α-)のカルボニル酸素原子上に水素ラジカルが結合すると,カルボニル炭素原子上に不対電子を有するペプチドラジカルが生成し,アミド結合(NH-C_α)が特異的に開裂した反応生成物が生成する.ペプチドを用いた本反応系を水素ラジカル発生の検出評価システムに採用したところ,超純水と超音波の組み合わせでは,水素ラジカル付加に由来するアミド結合開裂による生成物の他に,予期しなかったペプチド結合(CO-NH)の加水分解を示す1質量違いの生成物も同時に検出された.分解物の検出には分光蛍光光度計の他にレーザー脱離質量分析計を使い,生成物の1質量単位の違いまで厳密に計測でき,水素ラジカルの発生を検出し得る反応評価システムを確立することができた.基礎的データとして,超音波照射時間と反応物の分解の程度および生成物の収量との関係,水分子の開裂に由来するヒドロキシラジカルHO・による酸化生成物の生成条件,および構造未決定であるが再現性の高い副生成物の生成条件を得ることができた. 以上の成果は,平成19年度に開催される国内外の学会で発表,および論文を国際雑誌に投稿発表する予定である.
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