酵素の阻害剤および医薬品の開発過程において有効なアッセイ法、スクリーニング系の確立は不可欠である。実験動物を使用しない、in vitroでのスクリーニング系として簡便、廉価な方法が望まれており、ここ数年、数種類の分析機器を使用した方法が考案されている。その中のひとつとして、核磁気共鳴(NMR)法の薬剤スクリーニングへの応用が試みられている。最初に報告された方法は、リガンドとの結合を2次元1H-15N相関スペクトルによりモニターする方法であるが、安定同位体標識に要するコストや分子量制限など適用には幾つかの制限がある。 本研究では、既存の2次元1H-15N相関スペクトル方法の短所を考慮し、迅速、廉価なNMRによる薬剤スクリーニング系の開発を目的とした。具体的には安定同位体を使用せず、分子間相互作用に関与し、標的タンパク質に結合するリガンドのみを1次元スペクトルで検出するNMR測定法の開発を目指した。 高親和性のみならず、低親和性のリガンドも含めて、幅広く薬品の侯補となる化合物を短時間で認識する手法の開発を行った。リボヌクレアーゼT_1(RNaseT_1)-5-GMP複合体に関して、数種類のNMR測定を比較検討した。NOEポンピング、STDおよびWatetrLOGSYの比較検討において、WatetrLOGSY法でのみ5'-GMPのシグナルが観測され、有効性が示された。他の論文報告で有効性が示されたNOEポンピング法は、血清アルブミン以外のタンパク質で有効例を示すことができなかった。NMR法ではサンプル依存性が高いことが、以前から指摘されてきたが、本研究においてもNOEポンピング法に問題があることが判明した。薬剤スクリーニングのみならず、タンパク質-結合水といった幅広い生体物質-低分子の分子間相互作用観測にも本法を適用し、生体現象の解明に用いた。
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