水について19年度までに整備したエネルギー・寿命相関(AMOC)測定法の測定を行った。その結果、水中では三重項ポジトロニウム(オルソーポジトロニウム、o-Ps)がヒドロキシルラジカル(OH)などの活性種と反応を起こしていることを実験で確認した。この結果から、o-Ps内の電子と、スピンに相関のある電子が、水中で形成されるOHラジカル内に存在し、OHラジカルの超微細結合定数によってラーモア歳差運動している電子の回転を、AMOCで観測できる可能性があることがわかった。実験を行っていく過程で、超微細結合定数には温度依存性がある可能性があることがかり、試料の温度制御を行って測定できるように恒温水槽を整備した。その結果、AMOC測定により、18℃水中で、電子の回転を量子ビートとして観測することに成功し、この、o-Psの反応過程を用いた新しいラジカルの超微細結合定数測定法の特許申請を行った。また、量子ビートは2種類存在することが明らかとなり、水中に2つの構造が存在することを示していると考えられる。いろいろな試料中で、水の構造の変化を観測できる新しい手法を開発したことを意味している。今後、陽電子を利用して、水の存在下での生体分子などの物理的化学的機能を、周囲の水の構造が分かっている状態で研究する事が可能となる。また、この手法でOHラジカル自身の挙動も明らかになる。
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