研究概要 |
1.光学活性金(I)錯体の合成と触媒的不斉脱水素シリル化反応への適用:剛直なバックボーンを持ち、かつ広い鋏角を与える光学活性配位子を合成し、これを用いて光学活性金(I)錯体を合成した。さらにこの金(I)錯体を用いて不斉点を持つ二級アルコールの脱水素シリル化による速度論的光学分割を試みたが、シリル化の反応速度は、以前報告しているXantphosを配位子とした反応系に比べて遅く、反応後得られたアルコールはほぼラセミ体であった。今回検討した光学活性配位子を用いた場合、今までの反応系では効率よく生成していると見られる反応活性種が、配位子の構造の違いのためにうまく生成していないのではないかと考えられる。 2.金(I)ヒドリド錯体の生成とスペクトル的観測:上記の結果から、この反応を成功させるためには反応活性種の効率の良い発生と、構造解析が必須であると考え、Xantphos型配位子をもつ金錯体に用いてこれらを検討した。本反応で想定している反応活性種は金(I)ヒドリド錯体であるが、この錯体はこれまでに合成はおろか観測例もなかった。しかし、立体障害を導入したXantphos型配位子をもちいて、重クロロホルム中塩化金錯体に対してヒドロシランを作用させたところ、反応はほぼ定量的に進行して目的の金ヒドリド錯体が生成した。この錯体は、金二原子に対してヒドリド水素が一原子存在する二核錯体であり、その構造はESI-MassやNMR,計算化学的方法により確かめられた。また、この錯体を用いて脱水素シリル化反応を試みたところ、反応がスムーズに進行したため、この錯体が反応に重要な種であることが確認できた。これらの結果は光学活性金(I)触媒による脱水素シリル化を用いた選択的合成法の研究推進のために重要な知見を与える。
|