有機合成化学において、「つくりたいものだけを選択的に作る」技術の必要性が益々高まっており、その代表的な手段として不斉合成がある。近年、この不斉配位子に関する研究が盛んであり、特に官能基で修飾された光学活性ヘリセンは、不斉配位子としてばかりでなく、液晶性分子、非線型光学材料など機能性有機材料への応用が期待されている。しかし、ヘリセン合成は二三の方法に限定され、光学活性体を得る不斉合成法は殆ど知られていない。そこで、独自に開発した「芳香族オキシコープ転位反応」を活用し、ヘリセンを中心とした光学活性π電子系化合物の有効な合成法を確立すると共に、それらを二量体に誘導して不斉触媒配位子としての有用性について検討することを目的とした。 本年度は、[6]ヘリセンの効率的な合成法の開発を行った。まず、1-メトキシビシクロ[2.2.2]オクト-5-エン-2-オンと2-リチオベンゾ[c]フェナントレンから転位基質を合成した。次に、この芳香族オキシコープ転位反応の条件検討を行うと共に、転位生成物から2-アセトキシ[6]ヘリセン誘導への最適化を試みた。その結果、転位基質から5段階収率で76%という非常に効率的な合成法が確立できた。 このように合成した2-アセトキシ[6]ヘリセンはラセミ体であるので、その光学分割を試みた。即ち、2-アセトキシ[6]ヘリセンを加水分解して2-ヒドロキシ[6]ヘリセンに誘導後、新たな不斉源導入のために塩化カンファノイイルを用いてエステル化した。得られたジアステレオマー混合物を再結晶法で分画した後、加水分解を行いP体とM体を得た。 今後、上記ヘリセン合成法の特徴を活用して官能基修飾したヘリセン誘導体を合成すると共に、光学活性[6]ヘリセン類の作り分けを試みる予定である。
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