光学活性なケイ素ルイス酸触媒の合成法を確立した。光学活性配位子としてBINOLで修飾したアリルシランにブレンステッド酸であるビス(トリフルオロメタンスルホン)イミド(HNTf_2)を反応させたところケイ素に結合したアリル基が脱離し、スルホンイミドアニオンがケイ素に結合したシリルアミドが生成した。このケイ素化合物はキラルルイス酸触媒として高い活性を示すことが分かった。すなわち、光学活性配位子としてBINOLをもつケイ素ルイス酸を触媒量(5mol%)用いて、アルケノイルオキサゾリジノンとジエン類との触媒的不斉ディールス・アルダー反応をトルエン溶媒中、低温下で行ったところ、良好なジアステレオ選択性(endo:exo>92:2)および非常に高いエナンチオ選択性(98%ee以上)を伴って反応が進行することを明らかにした。また、生成物の化学収率も80%以上と良好であった。さらに、触媒量の光学活性ケイ素ルイス酸およびアミン塩基を用いることで、ケトンとイミンの触媒的直接不斉マンニッヒ型反応に成功した。反応系を1H NMRで調べたところ、この反応はキラルなケイ素エノラートを経由して進行することが分かった。すなわち、キラルなケイ素エノラートの触媒的生成法を見出した。キラルなケイ素エノラートは不斉合成反応における有用な化学種であるが触媒的生成法はこれまで知られていなかった。ケイ素エノラートは、非常に多くの合成反応に利用されており、今回、われわれが開発したキラルケイ素エノラート生成法を適用することで、これらの反応の多くの不斉触媒反応化が可能である。ケイ素は資源的にも無尽蔵な汎用元素(ユビキタス元素)である上、毒性がない。本研究によって得られた成果は、理想的な環境調和型 ・省資源型不斉合成反応の確立を促進するものである。
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