研究課題
基盤研究(C)
放射光を利用して収集したキトサン錯体の高分解能繊維回折データをもとに結晶解析を行った結果、キトサンHBr錯体について、従来よりも精度の高い解析結果を得ることに成功した。そこで、キトサンと酸分子間の相互作用の詳細について考察を行ったところ、錯体結晶中には2種類のBr^-が存在し、一方のBr^-はその周囲にある3本のキトサン分子鎖のアミノ基と水素結合をしており、他方のBr^-は1つのアミノ基と2つのキトサン分子の6位水酸基との間に水素結合を形成し結晶構造を安定化していることがわかった。さらに、これらの相互作用に加え、キトサン分子鎖間にC-H…Oの弱い水素結合が存在している可能性も示唆された。明らかになったキトサン錯体の結晶構造解析の結果をもとに、錯体の形成機構について検討を進めたところ、既に構造解析を終了していたと考えていたキトサン水和型(複合体形成前の結晶型)の構造について疑問な点が浮上した。すなわち、水和型の結晶中では結晶のa軸方向に沿って分子鎖が平行に、b軸方向に沿って分子鎖が逆平行に配列しているモデルが得られていたが、複合体の解析結果に基づいた構造転移に関する考察より、これとは逆に、a軸方向には逆平行な分子鎖が、b軸方向には平行な分子鎖が配列している可能性が予想された。そこで、キトサン結晶中における分子鎖の配向に関して明確な結論を得ることを目的として、キトサン水和型の繊維回折データの収集を行った。その結果、従来よりも高分解能の繊維回折データを収集することに成功した。現在、放射光繊維回折データに基づき、水和型の構造の再検討を進めている。以上のように、放射光データを用いた高分解能繊維結晶解析により、キトサン複合体の詳細な立体構造についてはじめて明らかにすることができた。これはキトサンの物性を活かした材料を開発する上で欠くことのできない基礎的な知見となる。
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