水素結合を利用した人工アニオンレセプターは、種々の応用が可能であるため盛んに研究されている。シラノール水酸基はシリカゲルクロマトグラフィーなどにおける主たる相互作用部位であることは広く知られているが、シラノールを有するレセプターはほとんど報告が無い。新たな官能基の導入は分子認識の化学に貢献するだけでなく、触媒化学において多用されているシリカ表面での分子間相互作用の本質的な理解にも一定の寄与を与えるものであると考えられる。 本年度はシラノール水酸基がアニオン認識に有用性を確認することを主目的として、炭素アナローグにない特徴を有するシラノール誘導体とアニオンの相互作用についてスペクトル的に検討した。一般に不安定なgem-ジオールのケイ素類縁体であるシランジオールは分子内で水素結合を形成できないため、二つのシラノール水酸基は有効に分子間水素結合に利用できる。そこでジ(1-ナフチル)シランジオールを合成し、重クロロホルムや重アセトニトリル中、^1H NMR滴定によって、シラノール水酸基が酢酸アニオンやハロゲン化物アニオンなどを水素結合により捕捉することを明らかとした。さらに、X線結晶構造解析により、塩化物アニオン錯体の構造を決定し、シラノール水酸基と塩化物イオンとが水素結合していることを明確に示した。現在、他のシラノールを有するレセプターについて種々合成し、そのアニオン認識能について詳細な検討を行っている。
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