研究概要 |
高次ナノ組織体の創製には、ユニット(要素)間相互作用を設計しそのシステム化をおこなう方法論の開発が重要である。当該研究課題に関連して,本年度,フェニルボロン酸の化学的性質に基づく1)生体関連オキソアニオン種を標的とする自己組織型センサー材料の開発;2)イオンペア制御型分子カプセル,について成果を得た。 1)生体関連オキソアニオン種を標的とする自己組織型センサー材料の開発 フェニルボロン酸は,ジオール系色素であるアリザリン系色素と可逆的な相互作用を発現し,その色素の光学特性を変化させる。われわれは,この性質を利用して水系媒質中におけるオキソアニオン類の蛍光センシングを検討した。この機能目標に対して設計・合成したジピコリルアミン亜鉛錯体共役型フェニルボロン酸(1・Zn)の存在下,アリザリンレッドS(ARS)にオキソアニオン類を添加したところ,選択的な蛍光応答を示し,特にピロリン酸イオンに対して顕著な蛍光応答を観測した。溶液中におけるこの挙動を解析したところ,中性条件下では,ARSが1・Znの配位亜鉛部位と相互作用し蛍光発光を抑えていることがわかった。一方,その条件でピロリン酸イオンを添加すると,競争的に錯体構造が変化する。すなわち,ピロリン酸イオンが配位亜鉛部位と相互作用し,遊離したARSは1・Znのボロン酸部位とボロネートエステル化をおこすようになる。この構造変化を伴って蛍光応答を発現することがわかった。得られた知見は新しい自己組織化オキソアニオンセンサーの設計に有益である。 2)イオンペア制御型分子カプセル 分子カプセルは,3次元的に制御された包接空間を持ち,分子内部における孤立空間の化学を展開させるツールとなり得る。われわれは,フェニルボロン酸がcis-ジオール体と可逆的な共有結合を形成することに着目し,これを分子カプセル形成の要素間相互作用に用いることを検討した。CPKモデルによる検討から,cis-ジオール部位を持つ分子部品にcyclotricatechylene(1)を,一方,ボロン酸部位を持つ分子部品にhomooxacalix[3]arene(2)をそれぞれ合成して,カプセル化を検討した。CD_3OD-CD_3CN(4:1 v/v),室温中,1と2を共存させても相互作用はおこらない。しかしながら,AcONEt_4(3当量)を加えたところ,自発的なカプセル化がおこり,そのカプセル内部にひとつのNEt_4^+が包接されていることが,ROESYスペクトルから明らかとなった。このカプセル化挙動には,添加する塩のアニオン依存性およびカチオンサイズ依存性があることがわかり,イオンペアによって制御できる動的分子カプセルの構築に成功した。
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