研究課題
基盤研究(C)
一酸化窒素(NO)分子は生体内において小脳をはじめとする神経系における情報伝達あるいは血管弛緩作用に際し重要な役割を果たしている。従って生体内にNO濃度の異常は、アルツハイマー病やパーキンソン病、また酸化ストレスによる動脈硬化などの疾病と大きく関わりがあり、近年その濃度の定量法が検討されてきている。本研究では、高感度な電気化学的手法により定量を行うことを計画した。従来の電極法においては、NOの選択性に問題が生じてきていたことから、まず、NOに対して高選択的に相互作用できる化合物を設計・合成し、その物性について検討した。ニトリルからアミド化合物への変換を触媒している酵素ニトリルヒドラターゼは、活性中心に2つの主鎖アミド窒素原子とシステイン由来の3つの硫黄原子が配位子した鉄(III)あるいはコバルト(III)錯体を有している。前者ではその休止状態においてNO分子が相互作用しているいることが結晶構造解析から判明している。こうしたことから本研究では、このニトリルヒドラターゼの構造に類似した金属錯体を合成することでNOと反応可能な機能性分子を構築できるのではないかと考えた。本研究で設計・合成した化合物は、2つのアミド窒素原子と2つのチオレート原子を配位原子として有する鉄(III)およびコバルト(III)錯体である。前者は溶液中で分解挙動を示したが、後者は比較的安定であったため後者を用いて反応性および選択性の検討を行った。生体内においてNOをセンシングする際に最も問題となるのは、NOが水と酸素存在下で生じるNO_2^-の酸化電位がNOの酸化電位の近接位にあることである。そこで、NOとNO_2^-との配位挙動について検討を行った。コバルト(III)錯体のメタノール溶液に嫌気条件下でNOガスを吹き込んだところ、錯体の平面構造に特徴的な600nm付近の吸収が減衰し、390nm付近に新たな吸収を示した。これは金属イオンにNOが配位したことを示唆している。一方、NaNO_2^-を溶解した場合には、錯体に対して100倍以上の大過剰条件下であったにもかかわらず全くスペクトル変化が観測されなかった。このことはNOに対する選択性が非常に高いことを示すものであり、電極修飾のための機能性分子として十分な能力を有していることを示していることが分かった。
すべて 2006
すべて 雑誌論文 (5件)
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