研究概要 |
生体内の一酸化窒素(NO)の働きには血管の弛緩作用や免疫作用はよく知られており,前者においては活性酸素によるNO濃度の低下が動脈硬化を直結しておることから,メタボリック症候群との関連性において注目されている。このため生体内(とりわけ血管内)のNO濃度を定量することは,これら疾病との関連性を明らかにするのみならず,病気の予防においても重要な情報を与えるものと考えられる。ところが,NOは不安定でかつナノーマイクロモルと非常に低濃度であるため高感度で選択性の高いセンサーの構築が望まれている。本研究では,NOと反応性が高い金属イオンを用い,その選択性をあげるため,中心金属イオンが持つ正味の正電荷を小さくするこができる金属錯体を構築した。 昨年度に合成した3つの硫黄原子と2つのアミド窒素を配位原子として有するCo(III)錯体を用いて金電極への修飾を行い,その電気化学的NOセンシングを試みた。このCo(III)錯体はNOに対する反応性が非常に大きい反面,酸化還元電位が非常に負に大きく,溶媒と電極との反応により生じる電流に影響されるということがわかった。また,再現性に乏しく,これは金表面と反応可能な原子が3つ存在することからサンプルごとに分子の配向性が大きく異なって修飾分子数も大きく変化しているものと考えられる。そこで,修飾するための硫黄原子のみを残し,同程度の塩基性を持ちかつ取り扱いがより簡便なフェノールを導入した配位子を再設計、合成した。さらに配位原子の負電荷により酸化還元電位が負に大きかったことから,アミド窒素の一つをアミン窒素に変えた配位子を合成し,そのFe(III)錯体について物性の検討を試みたところ,NOとの反応性を示したが,長時間において錯体の分解を伴うことがわかった。
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