研究概要 |
ずれ応力によるニトロスピロピラン(SP)薄膜のクロミズム現象を調べている。溶液中のスピロピランは,紫外光によるスピロ環の開裂によってメロシアニン(着色)に変化し,可視光で無色に戻るフォトクロミズムを示す。本研究では,ずれ応力効果によるスピロピラン薄膜の色変化,光に対する応答性,γ-シクロデキストリン(γ-CD)包接の効果を調べた。 SP薄膜(淡黄色)はずれ応力によって緑色,応力を抜くと紫色の可逆的な変化を示した。ラマンスペクトル(励起光785nm)において,ずれ応力下の緑色には強い蛍光が見られたが,紫色では蛍光は徐々に消失し,SPのスペクトルにメロシアニンの生成を示唆する新たな弱いバンドが見られた。SP薄膜は,紫外光と可視光の照射によって淡黄色と紫色の可逆的な色変化を容易に起すが,応力によって生成した緑色の薄膜は,紫外光の2時間照射によっても緑色を維持し,ずれ応力によってSPの光に対する応答性は低下することが分かった。また,光によって生成した紫色もずれ応力によって緑色に変化した。 γ-CD包接SP生成物は桃色粉末であり,ずれ応力によって赤色に変わり,応力を抜くと赤紫色への可逆的な色の変化を示した。応力下の赤色のラマンスペクトルには応力に依存する蛍光が見られ,応力が弱い場合には,メロシアニンの生成を示唆するスペクトルが観測された。CD包接SPは紫外光によって桃色から濃紫色に容易に変化し,そのラマンスペクトルはメロシアニンの生成を示唆していた。濃紫色は可視光によって淡黄色のスピロピランに可逆的に変化した。 以上のように,SPとγ-CD包接SPに対するずれ応力効果は,応力下の色は緑色と赤色と異なっていたが,応力によるクロミック挙動,蛍光の発生,光に対する応答性などは共通していた。いずれも場合も,色の変化にはずれ応力によるメロシアニンの生成が関連していると考えられるが,CDへの包接によって変色しやすく,メロシアニン構造を安定化する傾向が見られた。
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