本研究で企図するMS/MSで読み取り可能なバーコードを導入するために、MS/MSにおいて優先的に開裂が起こる構造の検討を進めた。nano ESIおよびnano SSIのネガティブモードを用いた予備的な検討において、比較的不安定とされるシアル酸残基の脱離は起こらず、ヒドラゾンやオキシムを介して導入した標識試薬がイオン化の過程で脱離する傾向を見出した。本脱離は、企図したバーコードとして機能することが期待されたため、構造の様々なアミノオキシ・ヒドラジド含有標識試薬を10種類程度調製し、これらの試薬で標識したモデル糖鎖(ヒト血清由来グライコーム)のイオン化時のオキシム・ヒドラゾン切断時の効率を比較した。その結果、オキシム・ヒドラゾン切断効率は、標識試薬の構造に高度に依存的であり、アミノオキシ基またはヒドラジド基の近傍にグアニジニウム基のような強力なプロトン受容体基が存在する場合にのみ、オキシム切断が高効率に起こることを発見した。グアニジニウム基は高いプロトン受容体であるため、本構成は質量分析における高感度化にも同時に寄与する。本知見に基づき、MS/MSにおける選択的切断部位・イオン化促進部位としてグアニジニウム基を、フォトアフィニティプローブとしてジアリジリン誘導体等を配した新規標識試薬の小規模ライブラリーを設計した。さらに標的組織として利用を考えているマウスおよびヒト表皮について、シアル酸の付加情報を損なわずに定性かつ定量的なグライコミクスの目録を作成した。
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