研究概要 |
本研究課題では近年問題とされている大型魚類中での水銀含量の低減を目的として、自然環境中の水銀を補足・除去するためのデバイス開発を行った。本研究の着想は研究代表者の行ってきた核酸-金属相互作用解析、特に、水銀イオンとDNAチミン塩基の塩基対形成に端を発している。本研究代表者はDNA二重らせん分子中にチミン-チミン(T-T)ミスマッチが存在した場合、このミスマッチが水銀イオンの特異的結合ポケットとなることを報告している(J. Am. Chem.Soc., 2006,l28,2172-2173.)。従ってDNA分子の本性質を利用することで、環境中の水銀イオンを特異的に補足・除去できるデバイスを開発できると考えた。具体的には水に不溶性の固相ポリマー樹脂上にT-Tミスマッチを含むDNAオリゴマーを結合担持した水銀イオントラップデバィス)を化学的に合成した。ICP発光分光法を用いて本デバイスの水銀イオン除去能力を評価したところ、本デバイスは水溶液中から水銀イオンを補足・除去する能力があることが証明された。さらに興味深いことに本デバイスは水銀イオンに対する特異性が既存のデバイスより高いことが示された。本性質は自然環境中のような多くのミネラル成分が共存している環境下でも本デバイスが機能することを示しているデータと考えられる。さらに本研究では、DNA二重らせん中における水銀イオンの結合様式についても15N NMR分光法を用いて解析を行い、その化学構造および立体構造を明らかとした(J. Am. Chem. Soc., 2007,l29,244-245.)。このように基礎研究に根差したデバイス開発の結果、高機能かつ高精度の水銀イオン除去デバイスの開発に成功した。
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