本研究では、金属イオンに配位した配位子と第2配位圏におけるアミノ酸残基の側鎖との弱い相互作用について詳細な知見を得るために、シュウドアズリンの16位メチオニン残基をアラニン、ロイシン、イソロイシンに置換した部位特異的突然変異体を作成し、芳香族アミノ酸の置換との比較検討を行った。16位メチオニンを芳香族アミノ酸および、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリンへ置換した変異体および野性型のアルカリ構造転移と弱い相互作用との相関を電子吸収スペクトル、電子スピン共鳴スペクトル、共鳴ラマンスペクトルによって検討した。芳香族アミノ酸であるフェニルアラニン、チロシン、トリプトファンを導入した変異体では、構造が安定し、アルカリ構造転移を起こしにくくなっていることを報告したが、16位メチオニンについて、アルキル基を側鎖に有するアラニン、イソロイシンに置換した変異体は、アルカリ領域において、野生型および芳香族アミノ酸置換シュウドアズリンでは認められない不安定さが、バリン置換体同様、顕著に認められた。しかし、ロイシンでは、このような不安定さを見いだすことがなく、ロイシンの側鎖は、16位における弱い相互作用を有し、シュウドアズリンの活性中心の電子状態との相関を持つというユニークな結果を得た。また、X線吸収スペクトルの測定により、芳香族アミノ酸に置換したMet 16X変異体では、明らかに4s軌道の3d軌道への混ざりが減少し、アキシャルリガンドであるMet 86残基が活性中心であるCu(II)から遠ざかることが判明した。一方、アルキル基を導入した場合には、4s軌道の混ざりが増加し、Met 86残基がCu(II)へと近づく構造が優位となることが判明した。
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