糖タンパク質上の糖鎖の機能を解明するために、大腸菌発現法と有機合成法を組み合わせて糖タンパク質の精密合を検討した。本研究では、抗原提示細胞上の糖タンパク質、ヒト抗体のFc部位およびエリスロポエチン(EPO)を検討した。19年度終了時ではEPOをモデルとした合成に成功した。天然型のEPOは24、38、83番目のアスパラギン側鎖に糖鎖が結合している。我々は、EPOとそのレセプター複合体のX線結晶解析のデータから2本の糖鎖をもつEPO誘導体をデザインし、その合成を検討した。2分岐の複合型ジシアリル糖鎖を天然同様24番目に1本、そして非天然の位置の30番目に1本導入することにした。糖鎖の導入は、システイン残基のチオール基に糖鎖を結合させるハロアセトアミド法を用いることにした。そして、N末端から32番目までの糖ペプチド鎖を化学的に合成し、33番目のシステイン残基から166番目までのペプチド鎖を大腸菌で発現することにした。まず、24、30番目をシステイン残基に置換したペプチド鎖EPO(1-32)をFmoc固相合成法により合成し、そしてC末端をチオエステル基へと変換した。次に、複合型ジシアリル糖鎖の還元末端をプロモアセトアミド化した糖鎖誘導体と反応させ糖鎖ペプチドチオエステル体を合成した。そして、大腸菌発現により得たEPO(33-166)のペプチドセグメントとNative Chemical Ligation法により連結させ糖鎖2本をもつEPO誘導体の全長を得た。最後にグアニジンを用いる透析法によりこのEPOペプチド鎖のフォールディングを行った。そして、質量分析、ジスルフィドマップを作成し、目的とする3次元構造を有するEPO誘導体をはじめて精密に合成することができた。
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