研究概要 |
溶液混練法により,蛍光物質をドープした高密度ポリエチレンおよびイソタクチックポリプロピレンを調製し,その延伸過程中における蛍光物質の蛍光発光挙動を応力-ひずみ挙動と同時に測定するシステムを構築した。 同時測定の結果,ポリエチレン,ポリプロピレン共に蛍光発光の波長は延伸初期から破損,ネック延伸までの測定可能であった全領域において変化しなかったものの,降伏領域において過剰な蛍光発光が観察された。この蛍光発光強度は試料中の結晶含量と相関しており,体積分率で約50%以上の結晶含量において,結晶含量の増加と共に過剰発光量が増大することを明らかにした。 さらに,この過剰発光の起源を探るために降伏を起こすのに必要なエネルギーであるレジリエンスと過剰発光量の相関を調べたところ,両者は結晶含量や材料の種類によらず直線関係が得られた。このことから,降伏までに試料に蓄えられた力学的エネルギーが降伏とともに解放され,その解放されたエネルギーの一部を蛍光物質が吸収し発光していることが示唆された。そこでは,降伏領域での小角X線散乱測定の結果から,力学エネルギーが結晶相の破壊に利用されていることが確認された。また,降伏途中で延伸を中断した試料では,延伸中断後,徐々に過剰発光強度は減少していくものの,再び延伸を始めると,延伸中断直前の過剰発光強度にまで回復した。 これらの知見から,材料中にドープした蛍光物質の蛍光発光挙動は,その材料の破損の程度に著しく依存しており,非破壊で試料の破損状態をモニターするためのマーカーとしての使用可能であることを見出した。
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