研究課題
走行中の繊維に炭酸ガスレーザーを照射して急速かつ均一に加熱することによってネック延伸点を非接触で空間中に固定できる。この特徴を利用し、固定されたネック延伸点から任意の距離離れた点でのその場測定により、繊維構造形成過程を解析した。本年度は、Poly (ethylene naphthalate) (PEN)、Polypropylene (PP)、およびPoly (butylene terephthalate) (PBT)に関する温度プロフィールとX線回折測定を行った。PENの繊維構造解析過程では、ネック変形直後にフィブリル状の形態を持つ2次元秩序構造が形成され、数ミリ秒後に消失するのに連動して配向結晶化により繊維構造が形成されていくことがわかった。これに対し、PBT、PPではネック延伸直後(1ミリ秒以内)で既に結晶性回折が現れる。互いに似通った分子鎖構造を持つPET、PTT、PBT、PENのうち、PETとPENでは2次元秩序構造が観察され、PTTとPBTでは観察されなかったことは注目に値する。またPETについて傾斜写真の撮影を行ったところ、2次元秩序構造に傾斜配向は認められなかった。したがって分子鎖の傾斜は、2次元秩序構造が結晶に転移する際に起こっている。いずれもフィブリル状構造の萌芽はネック変形直後に形成されていることが示唆されるが、小角像に明瞭な繊維構造パターンが現れるのは数ミリ秒経過後である。このことは、繊維構造形成と配向結晶化の進行とが必ずしも一致しないことを明瞭に示唆している。また、繊維温度測定の結果より、いずれの高分子でも、外力によって加えられた仕事が延伸点ですべて温度上昇に結びついているわけでは無く、一部はいったん内部エネルギーとして蓄えられ得ていることが実証された。このことは、外力による仕事によって配向結晶化および繊維構造形成が誘起されていることを示している。
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