研究概要 |
本研究課題では,水溶性のポリ[N^5-(2-ヒドロキシエチル)L-グルタミン](PHEG)の側鎖に,結晶化を起こすような長鎖アルキル基(炭素数n)を導入した,PHEG-graft-Cnの化学架橋型のゲルを研究の対象とし,アルキル鎖の結晶化による形状記憶能の発現を目指すものである。 本年度は,昨年度とは異なる新たな調製手法を確立し,また側鎖の組成や架橋度を明確にする目的で,PHEGにアルキル側鎖を導入した後,濃厚溶液をゲル化する手法を試みた。 まず,PHEGの側鎖末端に存在するヒドロキシル基に,オクタデカノイルクロライドを反応させて,長鎖アルキル基を有するPHEG-graft-C18を得る。ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた10%溶液に,架橋剤としてドデカンジオイルジクロライドを加え,よく攪拌した。ガラス管中に溶液を満たした後,加熱することでゲル化させた。反応終了後,ゲルをガラス管中から取り出し,DMSO中で浸漬させ不純物を除き,さらに蒸留水中に浸漬して溶媒置換を行い,最終的なロッド状のゲル試料を得た。 以上の調製方法で,側鎖導入率が5mol%,26mol%の二種類のPHEG-graft-C18を用いてゲル化を行ったところ,前者は非常に柔らかく形状記憶試験を行うことができなかったが,後者は,架橋剤を60mol%以上加えた場合にゲル化し,形状記憶試験を行うことが可能であった。ロッド状のゲルを60℃で約30%延伸し,2℃に冷却するとその長さで固定化した。再び60℃に昇温すると,自発的にもとの長さまで戻ることから,形状記憶能があることを確認した。示差走査熱量測定の結果,2℃での延伸状態の固定化は,アルキル鎖の結晶化によるものであることが示唆された。
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