研究概要 |
本開発では、典型的な酸化酵素であるグルコース酸化酵素(GOx)と無機物質であるプルシアンブルー(Fe^<III>_4[Fe^<11>(CN)_6]_3,PBと略)を含む超薄膜を作成し、非常に低い印加電圧下(OV, vs.Ag/AgCl)で測定可能なグルコースセンサを作成することを目的としている。このような超薄膜を作成する際に最も困難な点は、如何にしてGOxとPBを薄膜内に活性を保って固定化し、且つ測定中における脱離を防ぐかにある。そこで本研究では、GOxとPBが溶液中でアニオン的な振る舞いを示すことに注目し、カチオン性分子のLangmuir-Blodgett膜を用いることでGOxおよびPBを静電相互作用により吸着させて固定化する手法を用いた。 カチオン性長鎖アルキル分子としてOctadecyltrimethlammonium(ODTA)を用い、そのクロロホルム溶液(1x10^<-3>mol/L)をPB溶液上(1x10^<-5>mol/Lに展開した。分子を水面上で50分間放置した後、ゆっくりと水面上の分子を圧縮し、表面圧30mN/mの一定圧力下でLB法(垂直浸漬法)による基板上への累積を行った。この方法により、基板上昇時にのみ膜が累積されるZ型LB膜が得られた(ODTA/PB LB膜)。作成したLB膜をGOx溶液中(1mg/mL, KCl0.5x10^<-3>mol/L)に30分間浸漬することでGOxを膜中に固定化し、その後KCl溶液中(0.5x10^<-3>mol/Lでリンスした(ODTA/PB/GOx LB膜)。作成された試料は透過電子顕微鏡、赤外吸収スペクトル、電気化学測定により評価した。 透過電子顕微鏡写真では、直径10-20nmのサイズを持つ多数のPB粒子が、一種の網目構造のような集合体を作って膜全体に吸着しているのが観察された。このことより、上記の作成方法によりナノサイズPBを含むLB膜が容易に得られることが確認された。GOx吸着処理後の試料における赤外吸収スペクトルでは、GOxに特徴的なアミド結合の赤外吸収構造が確認され、この固定化法によりGOxが試料内部に確実に取り込まれることが分かった。 GOx吸着処理を行なった試料を用いて、3電極系アンペロメトリー法によるグルコースセンサ特性を評価した。このとき試料の印加電圧は0ボルト(vs.Ag/AgCl)とした。グルコースを滴下し濃度を上昇させるのに比例して、系を流れる電流密度が増加していくことが観察された。この現象は、LB膜内に固定化されたGOxおよびPBナノクラスターが活性を保つことで、非常に低い印加電圧下でグルコース濃度変化に対応する応答電流を発生させていることを示している。上記の成果は、本年度の目的である低電圧下で駆動可能な酵素センサの作成に成功したことを示すものである。
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