Bi系高温超伝導体Bi2Sr2CaCu208+δ(Bi2212)の結晶構造に内在する固有ジョセフソン接合を、高品質単結晶の劈開表面からフォトリソグラフとイオンミリングを用いた微細加工により1辺1-5μm、厚さ3-7.5nmの微小固有ジョセフソン接合メサ構造として形成することに成功した。その厚さは、固有ジョセフソン接合の層数にして、2-5層に相当する。この微小メサ構造を用いて、短パルス固有トンネル分光を行ったところ、準粒子の自己注入による発熱は十分抑制されることがわかった。超伝導ギャップの大きさ2Δは不足ドープ領域で100meVであり、ドープ量の増加とともに減少し、過剰ドープ領域で40meVとなることがわかった。さらにBi2212では、ドーピング量を不足ドープ領域から過剰ドープ領域まで変化させると、ジョセフソン臨界電流密度Jcは約3桁増加することがわかった。また、重過剰にドープすると、Jcは減少する傾向を示すことが明らかになった。以上の結果から、Bi2212では不足ドープ領域でジョセフソン電流が理論よりも著しく減少しており、超伝導状態がミクロなスケールで超伝導部分と常伝導部分に相分離している可能性の強いことがわかった。また、不足ドープ領域では超伝導部分の面積割合が10%程度までなることを明らかにした。さらに、過剰ドープ領域では、理論予測に近いところまでJcが増加することを明らかにした。Bi系高温超伝導体で観察される不均一な超伝導状態はキャリアのドープ量により制御可能であることを明らかにした。また、元素置換不足ドープ高温超伝導体、および電子ドープ型高温超伝導体でも、Jcとドープ量の間に同様な関係が見られることを明らかにした。
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