I (intrinsic)層として働く、フラーレンとメタルフリーフタロシアニンからなる、共蒸着膜をp、n層でサンドイッチしたP-I-N接合3層型有機固体太陽電池の性能向上を目指した研究を行った。 (1)N_2(1気圧)下で、フラーレンを昇華精製し、最大1mmx2mmの非常に大きな単結晶として得ることに成功した。3回結晶析出させたフラーレンの純度がセブンナイン以上であることを確認した。このフラーレンをP-I-Nセルに組み込んだところ、セルの光電流発生層であるi層を、これまでに例のない、1ミクロン以上にすることに成功し、可視光を全て吸収利用することに世界で初めて成功した。その結果、シリコン系太陽電池に匹敵する19mA/cm2の短絡光電流、世界最高の効率5.3%を観測した。 (2)1000時間に及ぶ長期動作試験を行い、有機pn接合セルにおいて100時問連続動作で効率低下率0%、すなわち、完全な安定動作に成功した。Pinセルにおいて、数百時間の長期劣化モードが存在していたが、その原因が、N層として使用していた透明有機半導体の光劣化によるセル内蔵電界の消失に起因することを明らかにした。そのため、新しい透明無機半導体電子輸送層である、AZO(無機半導体ZnOにAlをドープしてn型性を高めた透明導電膜)を、有機薄膜を破壊せずに電子ビームによって有機膜上に堆積する親しい方法を開発した。AZOを組み込んだP-I-Nセルの長期動作試験を行い、1000時間(42日)の動作後の効率低下率5%を達成した。 (3)共蒸着膜の発生できる開放端電圧の最大値が、ドナー性分子(p型有機半導体)のHOMOレベルとアクセプター性分子(n型有機半導体)のLUMOレベルの差(有効バンドギャップ)で決まることを実証した。それに基づき、p型有機半導体としてこれまでのフタロシアニンに代えて、ルブレン、ナフタレンチオフエン誘導体を用いることで有効バンドギャップを広げ、これまでに無い0.8Vを越える開放端電圧を観測した。 開放端電圧1V程度の組み合わせを見いだし、超高純度化を行って可視光全域利用を行えば、10%程度の効率も得られると期待できる。 以上のように、P-I-N接合有機太陽電池が、効率の面からも、耐久性の面からも、実用化真近であることを実証した。
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