研究課題/領域番号 |
18560014
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
三村 功次郎 大阪府立大学, 工学研究科, 講師 (40305652)
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研究分担者 |
脇田 和樹 千葉工業大学, 工学部, 教授 (80201151)
田口 幸広 大阪府立大学, 工学研究科, 准教授 (80236405)
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キーワード | 熱電変換材料 / タリウム化合物 / 角度分解光電子分光 / インコメンシュレート超格子相 / ナノ空間変調構造 |
研究概要 |
本研究の目的は、熱電変換材料の候補である擬1次元化合物TlInSe_2が400K以下で10^6μV/Kものゼーペック係数を示す要因とされているインコメンシュレート(IC)超格子相(ナノ空間変調構造)の存在を、電子状態の変調を感度良く検出できる角度分解光電子分光法により実験的に検証することである。この目的を達成するため、本年度は以下のことを行った。 角度分解光電子分光実験より、TlInSe_2および同種のTlIGaTe_2に対するエネルギーバンドを観測した。Tl1InSe_2のエネルギーバンドを詳細に解析したところ、体心正方晶ブリルアンゾーンのT点において価電子帯頂上を形成するバンドが、280Kと50K間で異なる形状を示すことが明らかになった。これは、IC相とC相(コメンシュレート相)の構造相転移を直接観測した結果であると考えられる。また、TlIGaTe2におけるエネルギーバンドの温度依存性には、相転移による対称性の変化を伴ったギャップ構造が観測された(ただし、測定結果には試料依存性があるため、今後より詳細な測定が必要)。これらの成果は、第15回真空紫外線物理国際会議(VUV15)および第1回最先端技術における物質・情報科学に関する国際会議(MISHT2007:招待講演)において発表した。 さらに、バルクの情報をダイレクトに観測できる硬X線光電子分光実験をSPring-8において行い、各元素の内殻準位の温度依存性を観測した(施設利用費を科研費より支出した)。TlInSe_2、TlGaTe_2共に、温度上昇に伴い価電子帯電子構造を含めた各元素の内殻ピーク位置が高結合エネルギー側ヘシフトした。これらのシフト量から400KでのSeebeck係数を評価すると2×10^3μV/Kとなり、TlInSe_2に対して熱電能から観測された〜10^6μV/Kには遠く及ぼない。この結果は、TlInSe_2において巨大Seebeck係数が発生する要因が、フェルミ面近傍の電子的な要素のみでなく、相転移による電荷変調の効果、つまりIC相が大きな影響を与えていることを示唆する。 よって、本系の巨大Seebeck係数にIC相の存在は必要不可欠であり、電気伝導率の改善が望めれば、熱電素子としての期待も大きく膨らむであろう。
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