直流低電圧駆動エレクトロルミネッセンス素子を実現することを目的に、研究の初期段階として、ドナー・アクセプタ対を添加した硫化亜鉛、硫化ストロンチウム蛍光体の作製と特性評価を行った。これらの研究は、1970年代以前に精力的に行われ、現在では実用技術になっているものもある。しかし、1970年代以降の研究は非常に少ない。近年の材料加工技術・合成技術・評価技術を用いることにより、従来よりも特性の高い材料が得られる可能性が十分考えられるばかりでなく、これまで常識と考えられてきたことが覆る可能性もありえる。さらに、ドナー・アクセプタ不純物には、銅・金・銀・アルミニウム・塩素・臭素などが用いられてきた。しかし、アルミニウムと同属のガリウム・インジウム、塩素と同属のフッ素、ドナー不純物として期待される窒素・砒素・リンなどについての有意な報告事例も少ない。 エレクトロルミネッセンス素子用の蛍光体粉末には、硫化銅の針状態結晶が不可欠とされるが、この定説は、改めて確認することができた。これまでは、実験事実からの類推であったが、透過電子顕微鏡での画像などを用いて、示すことができた。また、この硫化銅が、蛍光体粉末合成の温度条件に敏感であり、銅の拡散現象や、材料表面に形成される欠陥準位などとも複雑な関係を持っていることが明らかになった。欠陥準位は、一般的に蒸気圧の低い硫黄の欠損によるものと考えられるが、亜鉛の欠損も無視できない可能性も示された。これら実験から、蛍光体粉末の合成は古い技術でありながら、長い年月の中で経験的に培ってきた、特別の条件を用いている。硫化化ストロンチウムなどのアルカリ土類硫化物を母体にドナー・アクセプタを添加した蛍光体は、アクセプタが有効に寄与しないためか、良好な発光をえることができない。 III族化合物は、II-VI族化合物に添加すると通常ドナーとして働くので、ガリウムやアルミニウムもドナー不純物となることが予想される。確かにアルミニウムはドナーとして寄与していることが確認されるが、ガリウムやインジウムについてはこれらが形成する準位とアクセプタ準位の間で発光を観測することができない。これは、1価のIII族として母体中に添加されている可能性が示唆された。
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