GaInAsNを4接合セルの第3セル材料として用いた多接合太陽電池は、40%を超える高い変換効率が期待されている。しかし、少数キャリア寿命が短く、期待されるほどの変換効率が実現されていない。少数キャリア寿命が短い理由は、結晶内における窒素濃度の不均一や、未解明の欠陥に由来するとされ、本問題の解決が期待されている。さらに、将来的には、量子ドット構造の採用なども期待されている。そこで、我々は、上記課題を解決でき、さらには将来の3次元構造を有したデバイス作成に必要な技術として、基板表面のステップ構造の制御と成長中のパルス光照射による新たな結晶成長方法に関して研究を進めている。今年度は、化学ビームエピタキシャル成長によって堆積した結晶の特性と表面での反応制御との関係をホール測定の温度依存性より調べた。ホール測定結果の解析の結果、GaAsN結晶中の散乱体の数が窒素濃度と増加した。本散乱体が窒素に起因する欠陥と思われる。散乱断面積の測定温度依存性から、本散乱体が点欠陥程度の大きさを有している可能性が示された。結晶表面での窒素系製膜種の拡散をステップ構造により制御したところ、同一の窒素濃度において窒素起因の欠陥密度が減少した。また、DLTS測定により、窒素起因の再結合中心が見つかった。再結合中心の構造解析とそれらに与える表面反応制御の影響を明らかにすることが今後重要である。以上述べたように、従来窒素濃度に比例して単純に増加すると考えられていた窒素起因の欠陥密度を、化学ビームエピタキシャル成長時の表面反応の制御(ステップ構造、供給の仕方、光照射など)により低減できることが示された。
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