負の電子親和力(NEA : Negative Electron Affinity)を有する半導体(GaAs)表面上に、鉄などの強磁性薄膜(多層膜)を成長させた系で、放出される光電子のスピン分解スペクトルを直接観測し、表面上の薄膜の存在・膜厚によるスピン偏極度とフェルミレベルの変化を明らかにすることを目的とする。特に、円偏光励起されたNEA表面からの放出電子はスピン偏極しており、その偏極電子が表面薄膜を透過する際の相互作用をスピン分解光電子分光法で直接測定につなげることを目指している。 研究の初めに、装置全体の改良に取り組んだ。具体的には、まず超高真空の排気系の改良である。新規にポンプを導入し良好な超高真空状態を実現した。次に、装置内部のマニピュレータの改良をし、蒸着機構を更新した。現在はその動作テストを待つ段階である。磁化のための一軸の比較的強度の大きい電磁石を設計・製作し、二軸型のコイルのための電源を導入・調整した。一軸の電磁石の性能評価を行い、概ね満足のいく結果を得た。また二軸型の電磁石は回転磁場を与えることも可能にすべく電源の更新・調整を行い、別のプロジェクトの共同者と共にその磁場の調整をした。この結果については間もなく投稿・発表される予定である。光学系の検出器を導入し、現在光学系の調整とあわせて検出器の性能評価を行っている。これら一連のテストが終了すれば、まず外部での磁化測定を試み、次に超高真空槽内部での、成長過程におけるその場測定に移行する予定である。 これと並行して、典型的な鉄系の多層膜の例として別の超高真空装置を用いて鉄に希土類を挟み込む多層膜の成長を行って、そのRHEEDやAFM、TEM観察などを行った。ここから、膜厚変化による磁化の変化の測定や他の金属への移行をする段階に至っている。
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