ナノテクノロジー研究を支える基盤技術として、電子顕微鏡は重要性である。電子顕微鏡において近年研究が進む球面収差補正装置の原理自体は、30年以上も前に考案された。近年ようやく実現しつつあるのは、収差測定手法の研究が進んだためであるが、まだ未解決の課題が多い。当該課題は、それらの基盤的な研究を推し進めることを目標としている。 対物レンズの収差を計測するための手法の一つとして、本研究では、提案者らが考案した結晶性試料を利用した新たな方法を検討している。ブラッグ回折した電子の散乱図形から収差を同定する方法で、従来手法が非晶質試料などを用いているのと比べて実際に観察対象である試料がそのまま使用できる利点がある。本年度は、従来型電子顕微鏡による実験と計測を行うと共に、特に走査透過電子顕微鏡において観察できるRonchigram(ロンチグラム)について検討した。 本手法では照射レンズ系を用いて、入射電子プローブを試料近傍に形成する。プローブが不安定になると、多重ブラッグ像もそれに応じてぶれてしまい、位置検出の精度が落ちる。実験の結果、不安定性の原因は、当初主たる要因と考えていた駆動電源自体の不安定性ではなく、気圧変動や温度変動であることが分かった。実際に実験をして高い安定度を実現した装置は、装置の詳細は、論文として発表した。 さらに、波動光学に基づく電子顕微鏡像のシミュレーション技術に基づき、球面収差等によるブラッグ像の変化をシミュレーションした。これまでの一般的なシミュレーションではできなかった、球面収差以外の収差(例えば2回および3回の非点収差など)を入れてブラッグ像やRonchigramをシミュレーションできるようにし、それらの新しい計測手法を考案した。以上の検討に基づき、その成果の一部は特許出願した。
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