ナノテクノロジー研究を支える基盤技術として、電子顕微鏡は重要性である。近年研究が進む球面収差補正装置が近年ようやく実現しつつあるのは、収差測定手法の研究が進んだためであるが、適用範囲が限られるなどの未解決の課題が多い。当該課題は、それらの基盤的な研究を推し進めることを目標としている。対物レンズの収差を計測するための手法の一つとして、本研究では、提案者らが考案した結晶性試料を利用した新たな方法を検討してきた。本年度は、特に走査透過電子顕微鏡において観察できるRonchigram(ロンチグラム)について詳細に検討した。これまで波動光学に基づく電子顕微鏡像のシミュレーション技術に基づき、球面収差等によるブラッグ像の変化をシミュレーションし、球面収差以外の収差(例えばコマ収差)を入れてRonchigramをシミュレーションできるようにしてきた。本手法では照射レンズ系を用いて、入射電子プローブを試料近傍に形成する。プローブが不安定になると、多重ブラッグ像もそれに応じてぶれてしまい、位置検出の精度が落ちる。独自のソフトウエアを用いて安定度計測を行い、安定度対策の結果ドリフト量がほぼ従来装置の1/10程度の0.2nm/min以下になっていることが分かった。装置の詳細や波及的に得られた実験結果については論文として発表した。
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