研究概要 |
反磁性物質が磁場から受ける斥力が重力とバランスするほど大きくなると,物質は浮上する.これが反磁性物質の磁気浮上である.磁気浮上は地上で実現できる擬似無重力状態であり,これを材料プロセスに応用することが望まれている.磁気浮上の特徴を活用した材料プロセスを考案するためには,磁気浮上状態における物質の挙動を十分に理解していなければならない.本年度はまず,炭酸ガスレーザー加熱の磁気浮上炉を用いて,数種類の有機ポリマーや分子性結晶の加熱溶融を試みた.多くの物質で加熱により上下動や回転運動が観察された.これは加熱による反磁性磁化率の増加と,不均一加熱による試料内の温度分布に起因しており,磁化率変化によるポテンシャルエネルギーの増大が運動エネルギーに変換された結果生じたものである.従来,反磁性磁化率の温度依存性はほとんど無視されてきたが,わずかな磁化率の違いが磁気浮上状態では大きな浮上位置の変化をもたらすことが分かった.次に,この結果を利用して,磁気浮上を利用した反磁性磁化率の精密測定法の開発を試みた.分子性有機単結晶のベンゾフェノンを磁気浮上させ,温度を上昇させながら浮上位置と印加磁場の計測を行った.この方法で磁化率の温度依存性を測定したところ,0.035%の変化量まで検出することが可能であった.これは従来の磁気天秤などの測に比べ二桁程度も高精度な結果であり,様々な反磁性物質を測定することにより,新たな反磁性の物理と化学が展開するのではないかと期待される.
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