研究概要 |
反磁性物質が磁場から受ける斥力が重力とバランスするほど大きくなると, 物質は浮上する. これが反磁性物質の磁気浮上である. 磁気浮上は地上で実現できる擬似無重力状態であり, これを材料プロセスに応用することが望まれている. 磁気浮上の特徴を活用した材料プロセスを考案するためには, 磁気浮上状態における物質の挙動を十分に理解していなければならない. 本年度は, 磁気浮上を利用した反磁性磁化率の精密測定法の開発とその相転移挙動観察への応用を試みた. 分子性有機単結晶のベンゾフェノンを磁気浮上させ, 温度を上昇させながら浮上位置と印加磁場の計測を行った. この方法で磁化率の温度依存性を測定したところ, 0.035%の変化量まで検出することが可能であった. これは従来の磁気天秤などの測に比べ二桁程度も高精度な結果である. この測定法の応用として, パラフィンの固液相転移での磁化率測定を試みた. 昇温過程において融点(〜50℃)近傍において, 磁化率は0.2%ほど増加し, 溶融後は1%以上減少した. 固体状態から液体状態になったときの磁化率の減少は配向状態の差として考えることができ, 融点近傍で見られた磁化率の増加は, 固液共存状態で残った固体の磁場配向によるものと結論された. このように反磁性磁化率を精密に測定することにより, 反磁性物質の相転移近傍での挙動を詳細に観察することに成功した. 今後, 様々な反磁性物質を測定することにより, 新たな反磁性の物理と化学が展開するのではないかと期待される.
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