揺らぎ工学と生物系における情報処理を主たるテーマとして以下の研究を進めた。 1、自己調節(ST)・フィルター理論とその画像への応用: これまで確率共鳴(SR)の研究では、情報処理能力の測度(メジャー)としてSN比や、相互情報量が注目されてきたが、実際に入力を再生・再現する場合は、もっと具体的に再現能力を計るメジャーが必要になる。入力Xと、離散的な出力Yに基づくその推定値X'の差$|X_n-X_n'|の(時間)平均の逆数をメジャーに選び、STのこのメジャーへの影響を研究した。明暗8ビットの画像に対し、M=7(3ビットへの圧縮)の系はSTにより著しく性能が向上することを見出した。明暗と併せて、カラー(1ピクセル赤、緑、青の24ビット)画像についても研究を進めた。またモンテカルロ計算により性能評価を行った。 2、2レベル系での閾値自己調節: double-wellポテンシャルの障壁の高さhを時間の関数とし、これを自己調節した。これにより、入力の中に信号(例えば周期部分)があるかどうかという最も基本的な問題の研究を進めた。ノイズの小さいところのみならず、ノイズの大きい場合についてもSTによりSN比が大幅に改善されることを示した。SRでは適当な強度のノイズを閾値系に印加することが、処理能力の向上に必要であったが、STでは、ノイズが小さければこれを低発火率として自己認識し、これにより閾値の減少がおこり、発火率をあげる。すなわち、STは中程度から弱いノイズ強度には適するが、ノイズが強過ぎると、STもその効果を失うようである。この領域は本質的に難しい領域であるが、本研究はこの問題を部分的に解決している。 3、1体の閾値系における温度の自己調節: ノイズの強度を出力により適応(ST)させて最適な温度を見出すことに成功した。ここで最適な温度とはSRで見つかっているSN比最大を実現する温度(ノイズ強度)のことである。
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