研究概要 |
統合的リスク理論およびその定量的解析手法の構築を主題として,以下のような研究成果を得た。 [1]まず,リアルオプションへの応用を念頭において,既存のリスク理論における「リスク」の解釈を拡張し,ファイナンスを含めた種々の企業運営,経済的観点を考慮に入れたシステムの安全運営などにも適用し得るように,基本理論の拡張整備を行った。具体的には,リスクへの対処法を,保有(具体的な方策を適用しない),移転(保険契約やリスクの証券化などを通じて他に移転する),制御(直接的なリスクの抑制方策を適用)の3種に分類し,種々の分野におけるリスク解析がこの3種の組み合わせによって総括的に把握し得ることを確認した。 [2]次に,[1]で定量化の基本方針を与えたリスクの具体的な評価を行うための確率モデルの構築のための理論的整備を行なった。リスクの評価を与える確率モデルは,リスクの時間変動を取り扱えるようにするために,確率微分方程式に基礎を置くものとし,さらに,様々なシステムに汎用的に対応し得ることを要請するために,リスクの原因となる種々の不確実要因に対する数学モデルである「駆動雑音」のタイプはできるだけ広くカバーし得るように基礎理論の整備を行なった。具体的には,ウィーナー過程,2重確率ポアソン過程,それらの複合雑音,をシステムの基本駆動雑音として取り入れた。さらに,一般のレビイ過程への拡張や,空間的不規則要因の導入の検討も行なった。 [3]研究代表者のこれまでの研究成果に基づき,ギルサノフ・メイヤーの定理に立脚した確率測度変換法を活用し,[1][2]で構成した確率モデルの定量解析,およびリスクの数値評価のための高速シミュレーションスキームを構築し,いくつかの例題への適用を通じて,有効に機能することが確認できた。 [4]リアルオプションと深い関連を有する,信用リスクに関するいくつかの間題に本提案手法を適用することを試みた。
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