研究概要 |
平成20年度の研究を通じて得られた主な結果は以下の通りである。 1.平成19年度までの研究結果に基づき,Levy過程が駆動する確率システムに対して,その解過程の初到達問題を効率よく解くための高速モンテカルロ法の基本的枠組みを与えることができた。本研究での提案手法は,Girsanov変換に基づく手法,Delbaen-Haezendonck変換に基づく手法の延長線上に位置し,Levy過程に対するLevy-Itoの分解表示に基づいて,これらの確率測度変換法をハイブリッド形式で融合させたものである。さらに,変換された測度下で,デフォルトなどのリスク生成事象がおよそ50%程度生起するという制約条件下で,最も効率的な測度を選定する手法について新たな知見を得ることができた。 2.こういった基本枠組みの,実用的応用に向けての具体的な対応法として,非白色雑音が入力されるシステムと,定常的な応答挙動が得られるシステムに対して,部分的な拡張を試みた。前者は耐震リスクを評価する上で既観測のスペクトルを取り入れるために必要となる問題であり,後者は工学上の問題でもしばしば見られるものであることから,実用的にも非常に意義深い。またいくつかの数値例を通じて,提案拡張手法が有効に機能することを確認することができた。 3.リアルオプションへの応用を念頭に,平成18年度から,3つの基本的アプローチにより遂行してきた研究を総括した。ここで対象とした応用研究の第一は,確率制御理論を用いて企業の資産運用の最適化を論じるもので,本研究ではシステムへの雑音の一般化という観点から,二重確率Poisson過程が駆動するシステムの1つの重要な例である,保険会社の資産運用を対象とした。将来にわたる保険料率の変更および配当支払い率の変更という意志選択を対象に,評価リスクをいわゆる現在価値法により定量化している点で,リアルオプションの1つの例であり,これまでにあまり研究されていないPoisson型の雑音を対象としている点に特長がある。第二はリスク証券化の代表的な例である住宅ローンの証券化に対する考察であり,やはりPoisson型の雑音が駆動するシステムによりモデル化した上で,トランシェの最適比率を定めるための基本理論を与えてある。第三は,いわゆる非金融デリバティブを対象とした研究で,ここでは気温に基づく天候デリバティブについての基本的な考察を与え,その価格付けを行なうにあたって,上述の最適測度変換法の考え方を直接援用し,いわゆる非完備市場においても中立測度が一意に定められる手法の新たな提案を行なった。これらはすべて広義のリアルオプションに属するものであり,本研究のアプローチでこれらを総括的に取り扱い得ることが明らかとされたことになる。
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