研究概要 |
本研究では,代表的なα+β型チタン合金であるTi-6Al-4Vに1098K〜1173Kの温度域で1〜60s加熱後に急冷するという極短時間熱処理を施すことにより,応力誘起変態が生じうる準安定な残留β相の体積率を恣意的に上昇させ,逆に強度上昇をもたらすα'マルテンサイト相の生成量を極力押さえることで,冷間加工性の飛躍的な改善を目的としている.本年度に得られた結果を以下にまとめて示す. 厚さ0.6mmのTi-6Al-4V合金薄板材に上記の極短時間熱処理を施した後,光学顕微鏡による組織観察,マイクロビッカース硬さ測定および引張試験に供し,その際の微視組織および機械的性質の変化を系統的に調べた.その結果,極短時間熱処理により伸びが最大で73%改善(未処理材の伸び11%→熱処理材の伸び20%)すると同時に,降伏応力を22%(未処理材の降伏応力959MPa→熱処理材の降伏応力645MPa)低下可能であることが見出された.この結果は,極短時間熱処理により低応力下での冷間加工の可能性を示唆するものである.実際,極短時間熱処理材についてエリクセン試験を行ったところ,エリクセン値(張出し成形性を表す指標)は改善された.しかしながら,深絞り試験を行った結果,潜在的に深絞り成形性を改善可能であることが示されたものの,通常の方法ではしわ押さえの方法に問題があり,カップ側面に割れが認められた。今後,さらに深絞り時に発生する割れを回避するために装置等の改善を行うとともに,3点曲げ試験を行うことで基本的なデータの蓄積を図る予定である. 本来,研究2年目に行う予定であった疲労試験については,基本的データの取得を目的として一部先行して実施した.1223K,60sの条件で短時間溶体化後に803K,40sの条件で短時間時効を行うことにより,引張強さおよび疲労強度が未処理材の場合に対してそれぞれ29%,22%と大幅に改善されると同時に,延性が未処理材以上の水準に維持された.得られた結果については講演発表を1回行っており,また論文1件がすでに採択済(印刷中)である.なお,本研究に関連する特許2件が本年度発行した(特許3762528号および特許3789852号).
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