研究概要 |
繊維強化プラスチック(FRP)をはじめ高分子基複合材料は構成基材の選定が可能であり,使用目的にあわせた機械的特性の設計が可能である.しかしながら腐食環境下におけるFRPの長期信頼性に関する研究は,き裂進展および材料特性の低下といった巨視的観点により,破壊発生メカニズムの解明にはいたっていない.FRPの巨視的な最終破壊は,FRPの構成基材に蓄積される微視的損傷により引き起こされる.そこで本研究は,微視的損傷として母材樹脂の機械的特性の低下,強化繊維の強度低下,界面劣化に着目し,それぞれを定量的に評価した.エポキシ樹脂製試験片を純水中へ浸漬させた後に,空気中にて静的引張試験を行い,剛性および破断ひずみを調査した.浸漬前後で剛性は変化しなかったが,破断ひずみが浸漬により増加する傾向を示した.また,Eガラス単繊維をエポキシ樹脂に埋蔵した単繊維埋蔵型試験片(SFC)を作製し,水中にてSFC試験片の定ひずみ試験を行った.水中定ひずみ試験後に空気中にて静的引張試験を行い,繊維破断数および破断点に発生したはく離長さを測定した.繊維破断数および破断ひずみから,ワイブル分布を用いて繊維強度を計算し,水中定ひずみ試験により繊維強度が低下することを確認した.繊維の強度低下は負荷ひずみ,浸漬時間,試験温度を大きくすることにより促進されることがわかった。さらに,微小き裂進展モデルを用いるいことにより,さまざまな試験条件のもとの繊維強度低下挙動の予測が可能となった.また,界面はく離長さからはく離先端に作用する最大せんだん応力を,はく離発生前後のエネルギバランスからはく離発生に要するエネルギ解放率を算出した.最大せん断応力およびエネルギ解放率は,浸漬時間とともに低下し,収束する傾向を示した.以上のことから,母材樹脂の機械的特性,繊維強度の低下挙動,界面劣化を定量的に評価することが可能となった.
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