本研究は、次世代X線計測用光学素子に必要な、原子スケールで平滑な超薄膜をナノメーター周期で積層させた多層膜を製作し、短波長のX線(硬X線)に対して高い反射率を有する、高精度X線反射多層膜の開発を行うことを目的とする。平成19年度は、引き続いてイオンビームスパッタ蒸着法による多層膜の高精度化を図ると共に、新たに導入したパルスアークプラズマ蒸着法による成膜プロセスの開発を行った。 パルスアークプラズマ蒸着はスパッタガスを必要とせず高真空下での成膜が可能である。また、パルス放電回数により蒸着量を制御する為、多層膜や多元合金薄膜を簡便に成膜できる。反面、成膜領域が狭く均一な膜厚を得ることが困難で、また未蒸発溶融液滴(ドロップレット)の付着や成膜速度の不安定性などの問題がある。本研究では放電電圧の最適化やプラズマの磁場偏向によるドロップレットの低減を図ったが、当初の予想以上に蒸着速度の不安定性が大きく、要求される精度の多層膜を得る段階には至っていない。 イオンビームスパッタ蒸着による多層膜の成膜では、昨年度に引き続き成膜速度の安定化を図ると共に、膜厚制御用マスク機構を導入し、積層周期4nm、積層数50周期のPt/C多層膜において、積層方向の周期のずれが±0.25%(±0.01nm)以下、成膜面内の膜厚変動が1.17%以下の精度を得ることができた。一方、これらを曲面基板上に成膜した場合、曲率が小さければ十分な幾何学的精度が得られたが、反射率は約1桁低下した。平面基板(フロートガラス)の表面粗さが約0.3nm rmsであるのに対し、曲面基板(光学研磨基板)は1.4nm rms程度の粗さを有する。透過電子顕微鏡断面観察からは、光学研磨基板表面の粗さが多層膜の上層まで積層構造を乱していることが明らかとなり、硬X線多層膜では高精度の基板表面加工が求められることが確認された。
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