研究課題
基盤研究(C)
本研究は、次世代X線計測用光学素子の製造に必要となる、原子スケールで平滑な金属・非金属の超薄膜をナノメーター周期で積層させた多層膜を製作し、これによって、硬X線に対して高い反射率を有する、高精度X線反射多層膜の開発を行うことを目的とする。この目的を達成する為に、2年間の研究期間において、(1)イオンビームスパッタ成膜装置の高精度化による成膜プロセスの改善、(2)パルスアークプラズマ蒸着法による成膜プロセスの開発、の2点を主眼として研究を行なった。(1)ECRイオン銃を有するイオンビームスパッタ蒸着装置にシャッタ機構・マスク機構・ビーム安定化装置などの改良を施し各種成膜条件を検討した。積層周期が約4nmで積層数が50周期の白金/炭素多層膜を製作した。透過電子顕微鏡による断面観察の結果からは多層膜にはナノメーターレベルのサイズの欠陥は見られず、1次回折ピークにおいて理論値の80%以上の高反射率が得られた。更にイオンビーム電流、チャンバ圧力、ターゲット温度の安定化を行った結果、高次の回折ピークの半値幅は理論値にほぼ等しく、見積もられる積層周期のずれは0.6%以内であった。これは膜厚で0.03nmに相当し、高精度で積層周期を制御することができた。(2)パルスアークプラズマ蒸着はスパッタガスを必要とせず高真空下での成膜が可能である。また、パルス放電回数により蒸着量を制御する為、多層膜や多元合金薄膜を簡便に成膜できる。反面、成膜領域が狭く均一な膜厚を得ることが困難で、また未蒸発溶融液滴(ドロップレット)の付着や成膜速度の不安定性などの問題がある。本研究では放電電圧の最適化やプラズマの磁場偏向によるドロップレットの低減を図ったが、当初の予想以上に蒸着速度の不安定性が大きく、要求される精度の多層膜を得る段階には至っておらず、今後の改善が必要である。
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Jpn.J.Appl.Phys.Part 1 Vol.45,No.9B
ページ: 7305-7310
Jpn. J. Appl. Phys. Part 1 Vol.45, No.9B