本年度は単発放電痕の作成とその表面性状観察、並びに放電痕断面の観察を実施した。また、FEMによる逆問題解法の準備として、放電によって生じたアーク柱からの熱流束が工作物上面に流入する場合の工作物上面の温度分布シミュレーションを行った。 単発放電痕を作成するために、1発のパルスのみを出力できるように加工電源を改良した。これにより、単発放電痕を作成することができた。単発放電痕は従来の油加工液中で放電を生じさせた場合と気中で生じさせた場合の2通りの条件において、パルス幅を変化させて作成した。次に、放電痕の表面性状、特に周囲の盛り上がり高さの観察を行った。その結果、液中と気中とでは盛り上がりの形状が異なり、また、盛り上がり高さは液中、気中ともにパルス幅の影響を受けているが、その傾向が異なることが明らかとなった。すなわち、液中の場合、パルス幅が短いと単発放電痕の周囲の盛り上がり高さが高く、パルス幅が長くなるにつれて盛り上がり高さが減少する傾向を示す。一方、気中で作成した単発放電痕においては、パルス幅が短いと盛り上がりが低く、パルス幅が長くなるにつれて高くなり、ある高さに落ち着くことが明らかとなった。これは、アーク柱が生じる環境の違いが影響していると考えられ、アーク柱で生じた溶融部分の除去メカニズムが異なる事を示す結果と言える。現在、この違いの理由を探るべく、FEMを用いた逆問題解法の解析を展開している最中である。これまでに、解析の基本となる熱伝導解析のプログラムは形になっている。今後は、本解析に気泡の運動解析をリンクし、気泡の爆発的な膨張による工作物溶融部分の除去、ならびに極間に高速気体流が存在する場合の除去のメカニズムを探る。これによって、放電痕形成のメカニズムが明らかにできると考えられる。
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