研究概要 |
わずかな正の工具逃げ角を付与したモデル工具を用いてピン状試片を加工することで,いわゆる工具逃げ面に新生面を強く押し付けながら摩擦する形式の摩擦試験機を用いて,微量油剤の効果を確かめるために,スクイズ作用とせん断作用による油剤の工具表面での平均厚さを算出する式を導出した.これにより算出された平均油膜厚さと工具表面粗さの比(油膜パラメータ)をパラメータとして各種油剤の摩擦低減効果を調べた.油膜パラメータが1より大きい領域では油剤による摩擦低減の程度に相違はなく,切削においてでも金属接触の抑止はかなり広い範囲でスクイズ油膜によると考えられる.一方,油膜パラメータが1より小さくなると,油剤粘度が低い場合,無極性油であるパラフィン系鉱油では摩擦低減効果は著しく失われるが,吸着効果の高いエステルでは油膜パラメータが0.1程度まで,摩擦低減効果が持続する.油剤粘度を著しく高くすると,無極性のパラフィン油でも油膜パラメータの小さな領域まで,摩擦低減効果が持続した.このことから,油剤が極微量となり表面粗さに対して平均油膜が薄くなると,表面近傍の実効粘度が高いことが,工具と被削材の接触部において油剤が存在できる要件のひとつであることが示された. 上記の表面近傍での実効粘度を確かめるため油中でのAFM探針によるスクイズ試験を行った.この結果から,パラフィン油とエステルでは金属表面近傍での実効粘度が著しくことなり,流動しにくい吸着層の厚みが1桁近く違うことが示された. これら摩擦試験の結果が温度上昇が生じる実切削で検証するため,アルミ合金6063の断続旋削を行った.エステルでは予想通り,初期に摩擦が小さく漸増傾向を示した.また,エステルおよび高粘度鉱油では切削後半以降の凝着が抑止しされ摩擦の急激な増加を防いでだ.
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