研究概要 |
昨年度作成した転がり滑り負荷装置を用いてCO_2インキュベータ内に生体関節内トライボ環境を再現し、その模擬環境下において、アガロースゲル内に播種した軟骨細胞を7日間三次元培養することに成功した。実験には酵素消化法により単離した牛軟骨細胞を用い、三次元担体である1wt%アガロースゲル(Type VII,Sigma)に播種し、これを培養組織試験片として実験に用いた。当初、模擬環境におけて充分な細胞の生存率を維持できなかったものの、試験片形状の変更により90%以上の生存率を実現した。実験では、回転ローター位置を培養組織試験片上面にふれる位置(初期圧縮歪み0%)となるようマイクロメータにより調節し、ローターと培養組織試験片表面間に転がり滑り運動を与えた。 回転ローターを1Hzで±5°回転させた純滑り実験では、培地に流出したグリコサミノグリカンの定量結果より、純滑り負荷が軟骨細胞による細胞外マトリックス産生量を増加させる傾向が示された。また蛍光免疫染色法によるII型コラーゲン線維とグリコサミノグリカンの組織内分布状態の評価では、接触点周囲の培養組織表層部にグリコサミノグリカンが偏在し、グリコサミノグリカンを多く含む表層構造が形成されたことが示された。これは、生体軟骨に存在する、プロテオグリカンを主成分としたゲル様表層と類似した機能的構造が、滑り負荷により培養組織に形成された可能性を示すものとも考えられる。一方、負荷位置直下では培養細胞の生存率が著しく低下しており、細胞外マトリックスも少なくなっていた。これは、定点に対する連続負荷の悪影響を示すものと思われ、転がり運動による負荷位置移動の重要性を示すものとも考えられる。また、組織表面におけるニラーゲン線維の配向も認められなかったことから、生体軟骨組織類似の機能的高次構造を形成するには、さらに負荷条件を検討することが必要であることが示唆された。
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